「宵山万華鏡」森見登美彦

宵山万華鏡

宵山万華鏡

モリミさんの最新作です。
祇園祭宵山の夜に起こる、ちょっと不思議なお話です。
話はいくつかの短編に分かれていて、個々で読んでも面白いけれど、何気にリンクしている部分が多いので、順番通りに読み進めていくと、もっと面白いです。

●各話感想
宵山姉妹
一連の話の導入部分。バレエ教室に通う小学生の姉妹の話で妹が主人公。
宵山の日もバレエのレッスンがあって、レッスンが終わった後、姉と蟷螂山を見に行って迷子になり、そこで不思議な体験をするというのが大まかのあらすじ。
お祭りの時の非現実的な街の様子や、人混みの中で迷子になった時の不安感など、よく描かれていて、こちらにも彼女の恐怖感が伝わってきました。

宵山金魚
宵山の日に高校時代の同級生にまんまと騙される男の話。
宵山を知らない奈良出身の東京で勤める主人公の藤田に、京都の骨董屋で働く高校時代の同級生・乙川が「宵山を案内する」と京都に呼び出す。
しかし、いざ見に行こうと二人で京の街を歩いていると、藤田は乙川とはぐれてしまう。
そして、立入禁止区域に入ってしまった藤田は祇園祭司令部に捕まり、『宵山様』の元へとしょっ引かれてしまう。
しかし、それは乙川が巧妙に仕組んだ仕掛けで、藤田はまんまとそれに騙されたのだった。
普通だったら、そんな事をされたら怒るところだけど、そうならなかったのは、乙川の憎めない人柄と、仕掛けがあまりに費用のかかった壮大なものだった故。

宵山劇場
宵山金魚』の舞台裏を書いた話。主人公は、乙川に協力した京都の男子大学生。
この話は、モリミさんの代表作「夜は短し歩けよ乙女」を読んでいると、更に楽しめます。
全体的には「宵山万華鏡」は「きつねのはなし」の様な、ちょっとミステリアスな部分が多いのですが、この宵山劇場は「夜は短し・・・」の様なノリで描かれています。

宵山回廊
それまでの話とはちょっと視点が変わっていて、全く別の話かと思いきや、『宵山姉妹』で、姉妹に道を教えてくれた柳さんという画廊を経営する男性が出てきたりして、全く関係がない訳ではないです。
主人公は桂に住む銀行員の千鶴。叔父が画家で、それが縁で柳さんとも知り合った。
宵山の日、喫茶店で偶然会った柳さんに頼まれて叔父の元に出掛けると、叔父の様子がいつもと違っていた。
叔父は宵山の日を繰り返しているという。叔父の娘で千鶴の従姉妹でもある京子は15年前の宵山の日に行方不明になり、それきり帰って来ない。
しかし叔父は宵山の行われている京都の街で京子を見つけ、後を追うように千鶴の目の前からいなくなってしまう。
千鶴もそれを追おうとするが、柳さんに止められて、現実の世界に留まる事ができた。

宵山迷宮
柳さんが主人公の話。
千鶴の叔父と同じ様に、宵山の日を何度も経験する。
それは、父の遺品が影響していると杵塚商会という骨董屋の乙川(・・・つまり、あの乙川さんです)が告げる。
父の遺品とは、どうやら水晶玉の事らしい。

最初は事態が把握できず、何度も宵山の日を繰り返した柳だったが、やがて何度も繰り返すうち、水晶玉の在り処を見つけ、宵山のループから解放される。
そして、宵山の世界に入りかけた千鶴も救う事ができた。

宵山万華鏡
宵山姉妹』の姉の方が今回の主人公。宵山ではぐれてしまった妹を探すうちに、『宵山金魚』や『宵山劇場』で出てきた大坊主や舞妓と出会う。

しかし、役になりきっているのか、それまでに出てきた彼らとは別人のようで・・・。
知ってる人のはずなのに、別人のようだというのは、結構怖いものがあります。
現実と非現実の境目がはっきりしていなくて、ちょっと怖い話です。
でも最後には無事に妹と宵山の世界から抜け出す事ができます。