「<新釈>走れメロス 他四篇」森見登美彦

新釈 走れメロス 他四篇

新釈 走れメロス 他四篇

1.『山月記』元ネタ作者:中島敦
斉藤秀太郎という、作家志望の大学生の話。
大学へはちゃんと通わず下宿で小説ばかり書いている内に精神的に追い詰められて失踪。
かつての後輩だった夏目が数年後に大文字山で発見するが・・・。
と、いうストーリー。
家で小説ばかり書いて文字としか向き合ってないと、こうなってしまうのかな・・・。
天狗云々は別にしても、ちょっとリアルで恐かったです。

2.『藪の中』元ネタ作者:芥川龍之介
ある映画サークルの映画「屋上」について、各々が語る話。
語る人によって少しずつ「事実」が異なっているのが面白い。
この映画の監督の鵜野は斉藤秀太郎の麻雀仲間。

3.『走れメロス』元ネタ作者:太宰治
詭弁論部の芽野(めの)という男が、部室を図書館警察に乗っ取られ、それを抗議しに行ったところで拘束され学園祭でパンツ一丁(桃色ブリーフ)で踊らされる事になる。
しかし芽野は姉の結婚式があるから明日の夕方まで猶予をくれと、同じく詭弁論部で親友の芹名を人質にして去っていく。
芹名は快諾するが、芽野には姉がいない事を知っていた。
絶対戻ってこない、あいつはそんな奴だと信じる芹名。
一方芽野も、芹名が全て分かった上で人質になったのだと信じている。
そんな二人の少し変わった友情ストーリー。
芽野が嘘がバレて図書館警察長官の差し金に追われ京都市中を走りまわるのが躍動感があって楽しかったです。

4.『桜の森の満開の下』元ネタ作者:坂口安吾
他とはちょっと違う作品。
斉藤秀太郎を師と仰ぐ男と、男がある4月の早朝に満開の桜の哲学の道で出会い、やがて一緒に暮らす女の話。
男は女の話を書いて小説化として有名になっていくが・・・。
桜並木に自分しかいないという、ちょっとミステリアスな雰囲気が素敵でした。

5.『百物語』元ネタ作者:森鴎外
これまでの登場人物が、ほぼ全員集合。
ついでに「森見君」まで登場します。
ある盆明けの頃に劇団主催の百物語が開かれることとなり、主人公の森見君もF君に行こうと誘われ参加する事に。
その会の参加者として斉藤や他のメンバーも。
夏の宵の、独特の雰囲気が出ていて、夏が恋しくなりました。
同じ鴎外の「青年」という作品に、主人公が漱石がモデルの作家の講演会に出るシーンがあって、そこの雰囲気に似てるなぁと思いました。

以上、各篇ごとの感想。
「詭弁論部」や「図書館警察」など、既存のモリミ文学に出てくる単語が出て来る度、「おぉ、これは!」って感じで嬉しくなりました。