「花宵道中」宮木あや子

花宵道中

花宵道中

吉原にある小見世「山田屋」で暮らす遊女達の話がオムニバス形式で綴られています。
因みに、表題作『花宵道中』は、女性のためのR-18文学賞の受賞作品ということで、つまりはそういう作品です。

でも、ただの官能時代小説とは違い、いやらしい感じはなく、すいすい読めました。
また、『花宵道中』のあとの作品は、受賞後に書かれた作品で、『花宵道中』での脇役を主役に書かれていたり、本編では書かれなかった事が書かれていたりと、続編的な感じですが、勿論、それぞれの作品の完成度も高いので個別に読んでも楽しめます。
実はあの人とあの人は親子だった、とか、姉妹だった、とか後になって分かるのが面白いです。

以下、ネタバレを含むあらすじと感想です。

・「花宵道中
表題作。遊女・朝霧と、阿部屋半次郎の話。
朝霧の馴染客である吉田屋を殺し、朝霧と結ばれるも、捕まって殺される半次郎。
二人だけの、桜の下での花魁道中のシーンがとても印象的でした。

・「薄羽蜉蝣」
朝霧の死後、朝霧の妹女郎・八津のそのまた妹女郎・茜の話。
茶屋で見かける船頭を好きになってしまった茜だが、もうすぐ初見世で好きでもない男に抱かれる事に。
その心境や、初見世後の事など。

・「青花牡丹」
島原に売られた姉と、里子に出され、染物屋に修業に出された弟の話。
後にその姉は、朝霧の姉女郎・霧里で、弟は半次郎だと判明。
しかも半次郎に殺された吉田屋はこの姉弟の父親。

・「十六夜時雨」
朝霧の妹女郎・八津と、同郷の女郎・三津が中心の話。
遊女は本気で男を好きになってはいけないが、そうと分かっていても、髪結いの三弥吉に惚れてしまった八津。
八津の実の姉・水蓮も交え、遊女の恋について語られる。

・「雪紐観音」
山田屋の看板女郎・桂山の妹女郎・緑の話。
小さい頃から鬼の子として周囲に忌み嫌われて育てられたせいで、口が利けなくなってしまった緑が、少しずつ桂山や三津に打ち解けていく話。
三津に対する緑の、恋とも言い難い憧れ。
ちょっと百合っぽい話です。

少し世間が狭いなぁ、と、ちょっと偶然に偶然が重なっている感じがしますが、それは小説の中の話として許せるかな、と思います。