「斜陽」太宰治

斜陽 (新潮文庫)

斜陽 (新潮文庫)

主な登場人物。敢えて嫌な書き方をすると、以下の通り。
・三十路間近の出戻り娘:かず子(主人公)
・ヤク中・アル中の弟:直治
・世間知らずの最後の貴婦人:「お母様」
・貴族が嫌いな農家出身の小説家:上原

◆あらすじ

舞台は戦後の混乱期の伊豆。
華族の娘かず子は「お母様」と二人で、戦死した父の遺産で細々と伊豆で暮らしていた。
お手伝いもいない、畑仕事もしなくちゃいけないという、決して裕福じゃないけれど、平穏な日々。

でもそれも仮の生活でしかなかった。
阿片中毒で最近は酒浸りの弟直治が戦争から戻ってきて、そして、「お母様」は結核に。

嫌な予感はあった。
蛇の卵を焼いて埋めてから、その卵の母親の蛇を庭でよく見掛けた。
かず子が風呂の薪の不始末でボヤを出してしまった。
やがて「お母様」は自宅で静かに息をひきとる。
直治は相変わらず家のお金で、親しくしている作家の上原たちと遊ぶため、東京へ「ご出張」。
その上原は、かず子が密かに好きな相手で、何度か手紙を書いていた。「あなたの赤ちゃんが欲しい」と。
でも返事は全く来なかった。
そんな或る日。
直治が東京からダンサー風の娘を連れて戻って来た。
バツの悪そうな直治を見て、かず子は東京の友達に会いに行くと言って、家をあけてやる。
でも、実はそれは上原に直接会うため。
行き違いなどもあって、やっとの事で探し当てた上原は仲間と飲み屋飲んでいた。
そっと仲間の輪に加えてもらうかず子。
上原は、「雑魚寝は無理だろう」と、知人の家にかず子を泊めてもらうよう送っていく。
かず子を送り届けると上原はまた仲間の元に。
かず子はお酒を飲んだせいか、すぐウトウトとまどろむ。
しかし、いつの間にか上原が隣で寝ていた。
上原がかず子を無視していたのは、農家出身という劣等感からか貴族が嫌いだったため。
やっと願いが叶ったとかず子が思うのも束の間。
その夜、弟の直治は自殺していた。
そして直治の遺書から初めて明かされる、直治の心情。
そこには、庶民には分からない貴族ゆえの悩みが吐露されていた。
その後、かず子は一人、伊豆に戻っていた。
一人になったかず子。
でも、もうすぐ生まれる上原の子供を思うかず子は寂しそうではなかった。
かず子は見事に「革命」を起こしたのだから。

◆読後感想

「死」は突然襲ってくるんだな、と。(勿論、作者がそうしたんですが)
「お母様」の時も、「あと4、5日は大丈夫だ」と医者が帰ったその日に。
直治の時も上原と結ばれた直後に。
幸せ・安心のすぐ後の死。場面の急展開。それがやけにリアルで怖かったです。
直治は遺書を読んでから好感が沸きました。
学校で、庶民の友達と自分は「違う」と思い知らされた直治。

麻薬の力に頼るしかなかった。酒の力に頼るしかなかった。
素面(しらふ)では、やっていけなかった。
毎日遊び歩いて、庶民の友達を真似をしても、結局庶民になれなかった直治。
貴族としての孤独感が常に付きまとっていたんだと思います。
今回初めて太宰作品を読みましたが、読んだ後、怖くてたまりませんでした。
死の恐怖。人生の儚さの恐怖。
そして、作者の実体験に基づいているという恐怖。
唯一の救いは、かず子の強さでした。
自信家で、恋に生きて、行動力もあって・・・
私には到底真似出来ません。
でも、こういう女性は見ていて気持ちが良いです。